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「ヴィデオドローム」
ヴィデオドローム VIDEODROME
1982年 カナダ映画 カラー 35mm 87分
監督+脚本=デイヴィッド・クローネンバーグ/撮影=マーク・アーウィン/美術=:キャロル・スパイヤー/音楽=ハワード・ショアー
特殊メイク=リック・ベイカー/製作=クロード・エルー/製作総指揮=ピエール・デイヴィッド、ヴィクター・ソルニッキ
出演=ジェイムス・ウッズ(マックス・レン)/デボラ・ハリー(ニキ・ブランド)/ソニヤ・スミス(ビアンカ・オブリヴィヨン)
ピーター・ドヴォルスキー(ハーラン)/レス・カールソン(バリー・コンヴェックス)/ジャック・クレーリー(オブリヴィヨン教授)
●かいせつ
ファンから『マスター・オブ・ホラー』の称号を受けているカナダ映画界の鬼才デイヴィッド・クローネンバーグの最話題作.これまで日本未公開であるにもかかわらず,直輸入ビデオ・ファンを中心に熱狂的な支持を受けている作品である.
主人公マックス・レンを演じるのは『カリブの熱い夜』('84),そして『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』('84)で一躍注目を集めたジェイムス・ウッズ.幻覚の世界からマックスを誘う謎の女ニキ・ブランドには,ロック・バンド,ブロンディーの人気ヴォーカリスであったデボラ・ハリーが扮し,強烈なセックス・アピールを披露する.
TVの潜在的な恐怖,ヴィデオテープに支配された人間の驚異的なヴィジョンを描いた本作の特殊効果を担当したのは,『スリラー』『狼男アメリカン』('81),『グレイストローク』('83)のリック・ベイカー.特殊メイク界の第一人者としての腕前を存分に披露,悪夢のような幻覚シーンの創造に成功している.
●サイエンスの悪夢―――――滝本 誠
さきごろ,公開されたジョン・ランディスのコミカル・ミステリー『眠れぬ夜のために』には,ランディスの友人の映画監督が多数出演していたが,一番手として登場したのが,デイヴィッド・クローネンバーグ(!)である.主人公が勤務する宇宙工学研究所のインストラクターといった役廻りでいくつかの台詞もこなしていた.
受講者から「そのスキャナーは――」といった質問がなされ,クローネンバーグ映画の大衆イメージが,例の頭部爆裂の超能力映画『スキャナーズ』('80)であることへのオチとなっていたこの映画で,ランディスが配役で間わず語りに示したのは友人クローネンバーグのサイキック・ヴィジョンの背景がサイエンスにある,ということである.
ただし,トロント大学の理工学部に入学直後,学業放棄したクローネンバーグにとって,サイエンスとの折り台いは非常に険悪といっていい.
かれの映画に登場するサイキック・フリークは,すべてサイエンスの悪夢が生みおとしたものである.商業映画第一作『人喰い生物の島』(TV放映),『ラビッド』の医学,『スキャナーズ』の化学,『ブルード』(未公開)の心理療法といったように.
以前,企画段階で消えたとはいえクローネンバーグ版『フランケンシュタイン』の映画予告が「バラエティ」誌に掲載されたことがあるが,たしかにクローネンバーグは,19世紀のマリー・シェリーの,今世紀末へのブラッディ(血みどろ)な末窩といえなくもない.『フランケンシュタイン』の映画化が消えたあとに製作された『スキャナーズ』は,このフランケンシュタイン・テーマを直接的に扱っている.
被造物(妊婦への薬品投与から生まれた超能力者レボック)による造物主(薬品を製造したルース博士)殺しのカノンもきちんと踏んでいるのだ.
クローネンバーグの集約的な『ヴィデオドローム』は当然,この呪縛を逃れることはできない.ここでのフランケンシュタインはサド・マゾ・セックスと暴力のテープに幻覚性の世界変革信号をインプットした「ヴィデオドローム」の発明家,今は亡きブライアン・オブリヴィヨン教授である.
SMと暴力を主題としたテープを買い入れ,また他局を盗みどりして自分経営のケーブルTVに海賊的に流しているマックス・レン(ジェイムス・ウッズ)は,この「ヴィデオドローム」というテープの存在にきづく.同時に,博士の信号によって肉体心理ともいうべき,新しい現実に落下していく.
クローネンバーグが『ヴィデオドローム』でみせたのは,自らが表現手段としている映像メディアが内在させる,フランケンシュタイン性への自己言及である.
「彼は多くのエンディングを抱えて悩んでいたわ」
と出演のデポラ・ハリーは語っているが,この幻覚に終着点はない.
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